【虐待のメカニズム】高齢者を守るべき立場の介護職員がなぜ虐待するのか?

介護の現場で何が起こっているのか、と思わずにいられないニュースが日々報道されています。

「元職員3人を書類送検、転落死の川崎老人ホーム」(産経新聞2015年12月11日)
「介護施設虐待、最多300件、厚労省調査」(読売新聞2016年2月6日)
「介護職員、傷害容疑で逮捕『独り言に腹が立った』」(読売新聞2015年8月24日)

こうした事件を引き起こす介護職員はほんの一握りですが、1件でも発生すれば、世間から「高齢者を守るのが介護職員だろう、何をしているんだ」と強く非難されます。

 

なぜ守るべき立場である介護職員が虐待を行うのか?

 

この記事では、介護現場における虐待のメカニズム(発生する理由や状況)をお伝えし、虐待予防につなげてほしいという事を目的にしています。

一歩間違えれば、誰もが起こりうる可能性があります。

もしも、身近な出来事で思うことがあるなら、ぜひご一読ください。

こちらの記事も参考になります→高齢者虐待の実例。実際に行われた行為と職員の対応

【虐待発生のケース】単独業務の時が危ない

介護職員による虐待は、個人の資質とともに「職場環境によって引き起こされる」ことがあります。

「職場環境によって虐待が引き起こされる」とは、「本来は暴力的でない人が、介護特有の職場環境によって暴力介護職員がいる」という意味です。

介護の専門家は、普通の介護職員が暴力に走ってしまう条件として、

  • 単独で仕事をする時間が長い
  • 20代~30代の介護経験が浅い職員
  • 認知症の知識がない職員

の3点を挙げています。

 

暴力を振るいたくて介護の道を選ぶ人はいません。

なので、高齢者を虐待している多くの介護職員は、虐待が悪いことであると認識していますが、ストレスに負けてしまうのです。

なので、他の職員が見ていない単独業務の時にストレス発散として虐待を行うのです。

 

また、若い介護職員で介護経験が少ないと、介護高齢者のゆっくりした行動が「年相応の動き」と理解できず、

「ノロノロしている」
「とろい」

と思ってしまいます。

真面目な介護職員ほど、「時間通り、規則通りに介護をしたい」と考えます。

そういった介護職員は「一生懸命取り組んでいるのに」という気持ちが強くなってしまうので、高齢者がノロノロ、トロトロしていると「なんでちゃんとしないんだ」という怒りの感情が湧いてしまうのです。

また、介護職員に認知症についての知識がないと、認知症患者の問題行動について「わざとそんなことをしているのだろう」と勘違いしてしまい、注意や叱責で制御しようとしてしまいます。

キレる高齢者への対応はどうするべき?

高齢者を急かせると仕事がスムーズに進むという事実

あなたが老人ホームで働く新人介護職員だと仮定してください。

そこに「Aリーダー」「Bリーダー」という、2人の上司がいたとします。

 

Aリーダーは、とにかく高齢者を急かせる。

仕事はよく言えばテキパキですが、スタッフも利用者からも恐いと恐れられていますが、要領良く仕事が片付くので、この人と組む日は、あなたも定時に帰宅することができます。

 

Bリーダーは、仕事が丁寧でとにかく優しい。

ただ、高齢者の話を長々と聴くので、ひとつの業務に時間が取られ、この人と組む日はあなたには必ず1時間程度の残業が発生します。

 

ここであなたに「あなたならどちらのリーダーと一緒に仕事がしたいですか?」と尋ねると、きっと「Aリーダーと組みたい」「Bリーダーと組みたい」と意見が割れるでしょう。

しかし、実際の介護の現場では「Aリーダーの方が優秀である」と評価されることがあります。

 

Bリーダーは優しいので、入居者たちは日常生活の不満を次々漏らし、仕事も時間が押しますが、Aリーダーからすれば「そんなことはどうでも良い」ので、早く仕事を終わらすことが目的です。

こんな感じなので、老人ホームの入居者は、Aリーダーの高圧的な態度に恐れをなして、「やってほしいこと」を言えない状況を作っているのです。

 

では、施設長からは2者の評価はどのようになるのか?というと、

Aさんがリーダーの日は、施設内の秩序が保たれ、スタッフの残業も少ない」
×Bさんがリーダーの日は、入居者が落ち着かず、スタッフも苦労している」

と見えてしまうのです。

現場目線、利用者目線であれば、高圧的なAリーダーは支持されないのに、ぱっと見は良く見えてしまうのです。

 

「職場のトップである施設長がAリーダーを評価しているのに、それでもあなたはBリーダーを支持し続けることができますか?」

「AリーダーとBリーダーが仕事のやり方で対立した時に、あなたは「Bさんの仕事の方が正しいと思います」と言うことができますか?」

 

この葛藤が職員による虐待発生につながっているのです。

嫌味な高齢者の頭を叩くチャンスが与えられても拒否できますか?

同僚の介護職員が、食事を摂ろうとしない入居者の頭を軽く小突いて食べさせていたとします。

この同僚は、あなたがこの施設に就職した当初、「介護のいろは」を教えてくれました。

同僚はあなたより年上で、経験もあり、介護福祉士の資格も持っています。

 

その時、新人介護職員であるあなたは、その同僚を注意できるでしょうか?

そして、もしその同僚から「食事介助に時間をかけちゃだめだよ。なかなか食べようとしない老人がいたら、頭を小突いてでもいいから、スイスイ食べさせて」と言われたら、それを断ることができるでしょうか?

しかも、その入居者は嫌味な発言が多く、あなたが普段から「苦手だな」と感じている人だったとしたら。。。

 

「軽く頭を小突くだけ」という、極めて小さな悪に手を染めるだけで、食事介助というとても面倒な仕事がスムーズに進むのです。

このように介護現場には、「暴力や虐待への誘惑」がごろごろ転がっているのです。

ちゃん付け→暴言→虐待という順番でエスカレートする

介護職員による虐待は「暴言」から始まります。

「おい!」
「こら!」
「くせえな!」
「いいかげんにしろ!」

そういった乱暴な言葉が口から出ている介護職員を放置しておくと、近い将来必ず虐待職員に変身します。

ただ、乱暴な言葉も、いきなり出てくることはないので、必ず「兆し」「前兆」があります。

高齢者を「ちゃん付け」で呼んだり、ため口で会話したり、レクリエーションで失敗した人を笑ったりすることが、暴言の兆しとなります。

「それが暴言?」
「それが虐待のスタート?」
「コミュニケーションの一種では?」

と感じるようなことでも、長期間にわたって継続すると、介護職員の感覚が麻痺してきて、より悪いことをしても罪悪感を持たないようになるのです。

虐待をなくすには「自問自答」と「職場長からの声かけ」が大事

虐待をしたくて介護の道を進む人はいません。

つまり、介護の仕事が虐待職員を作りだしているということです。

 

ある障害者施設の施設長は「軽微な虐待を含めると、職員による虐待をゼロにすることは不可能」と言います。

ですが、その施設長は「虐待を根絶することはできませんが、軽微な虐待で留めることはできます」と言います。

 

 

その方法とは、職場の中で職員たちが絶えず「これ、虐待かな?」と問い続けることです。

 

 

また、自制以外にも、他者(上司)からの声かけも大切です。

職場長が職員を注意しない限り、軽微な虐待は必ず重大な虐待に発展してしまうからです。

高齢者に幸せを届ける介護施設を、高齢者を地獄に陥れる虐待施設にしないためには、1人ひとりが「油断すると誰でも暴力職員になってしまう」ということを意識することが必要なのです。

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