認知症高齢者の酷い「物盗られ妄想」の原因と対応策

厚生労働省は

  1. 認知症ではない介護高齢者向けの介護
  2. 認知症の介護高齢者向けの介護

の2つをを分けて検討していますが、この理由は、認知症の方へのケアがとても大変だからです。

認知症ケアの困難さは多数ありますが、ここでは、介護職が非常に手を焼く「物盗られ妄想」について、その実例と原因、対応策についてご紹介させていただきます。
スポンサーリンク

物盗られ妄想とは?

物盗られ妄想とは、認知症の高齢者が、本当は盗まれていないのに「自分の物が盗られた!盗まれた!」と訴える症状です。

認知症の原因となる病気の内、アルツハイマー病の患者や統合失調症によく見られるのが特徴です。

物を盗られたと妄想する人が、盗難被害に遭ったと思っている対象物は、現金、財布、通帳、印鑑など重要な物が多く、しかも、妄想上の犯人に仕立て上げられるのは、家族や介護職など、身近な人であるケースがほとんどなので、介護現場は混乱します。

実際に介護現場ではどのような事態が起きているのでしょうか?その事例を紹介します。

認知症高齢者による物盗られ妄想の実態を紹介

「財布からお金を抜き取られている。。」妄想とは思えないリアルな情景描写

suri 要介護2の85歳の女性Aさん(自宅で45歳の娘Bさんと2人で暮らし)は、3カ月前に精神科で認知症と診断されました。

Aさんは、娘さんが仕事の日に訪問介護サービスを利用していて、2人の訪問介護員の両方をとても気に入っています。

ある日娘さんが仕事から帰宅すると、母親のAさんから「ヘルパーのCさんは、私の財布から1000円ずつ抜き取っている。私が認知症だから分からないと思っているようだけど、私は毎日財布の中身を数えているから間違いない」と聞かされました。

娘さんは、認知症高齢者は妄想被害が起きやすいという知識は持っていましたが、母親のリアルな情景描写に、「もしかしたらCさんならやりかねないかも。。」と疑いの目を持つようになってしまいました。

娘さんは翌日、Cさんを派遣している介護事業所の責任者に電話をして、母親の訴えを説明しました。

Cさんの誠実な業務態度を知っている責任者は「Aさんの物盗られ妄想に間違いない」と確信しましたが、それでも娘さんには「窃盗は無いとは思いますが、うちのCが100%無実とも言い切れないので、聞き取り調査をした上で、お宅に伺います」と回答しました。

聞き取りを受けたCさんは責任者に、「財布からお金を抜き取るなんてことはしていない」と断言しました。

それで責任者とヘルパーのCさんは、Aさん宅の近くの喫茶店に娘Bさんを呼び、面談しました。

Aさん宅に訪問しなかったのは、Aさんを刺激しないためです。

責任者の説明やCさんの人柄のおかげで、娘のBさんは「Cさんが潔白であることが分かりました」と言いましたが、それでもCさんはAさんの担当から外れることになりました。

Cさんは、「会社の責任者も娘さんも、自分のことを信じていると言ってくれたが、担当を外されたということは0.001%くらいは疑っているのだろうか?」と不安な気持ちを拭えません。

 

「通帳からお金を引き出されている」同僚からも疑いの目を持たれる

okane有料老人ホームに入居している75歳の男性Dさんは、ここに勤める男性介護職Eさんが「自分の通帳からお金を引き出している」という妄想にかられています。

しかし、Dさんは、そのことをEさん本人はもちろん、施設長にも言いません。

なんとDさんの妄想は「自分はお金を盗まれているが、これを公にしたら、Eさんの将来が台無しになるから黙っておいてあげよう」という内容だったのですが、Dさんの妄想は更にエスカレートして、「定期預金を解約された」「通帳から引き出された金額はついに500万円を超えた」というところまで膨らみました。

妄想に押し潰されそうになったDさんは、介護職員であるEさんの同僚に「これから話すことを誰にも言わないでほしい」と前置きしてから、Eさんの悪行(妄想上の)を知らせました。

同僚の介護職員も、Dさんの話を聞いた当初は認知症の方が話すことだからと軽視していましたが、20分以上話を聞いている内に、「そういえばEさんは以前、パチンコにのめり込んで給料の大半をつぎ込んでいるって言っていたけど…まさかな…?」と考えるまでいってしまい、ついに「これは一度、Dさんの預金通帳を調べてあげないといけない!」と思うほどになってしまったのです。

幸い、大事になる前に施設長がこの騒ぎに気付き、厳密な聞き取り調査をしたうえで、介護職Eさんの無実が証明され、疑われることはありませんでしたが、介護職員のEさんは、「認知症高齢者の言うことを真に受けた同僚Dは、介護職の素質がない」と怒っています。

被害妄想が酷いのにはどんな原因があるのか?

物盗られ妄想を引き起こす原因の元になるのは、主には認知症や統合失調症、アルツハイマー病が一般的。

ですが、症状を悪化させる要因・原因は他にもあり、認知症の薬を製造販売している会社によれば、性格や生活歴、社会的要因、経済的要因も大きく関わっていると言われています。

つまり、前提としては病気が引き起こしているのが最もな回答ですが、その病気を引き起こす原因としては個々に違うので、何か1つに特定するのは非常に難しいのです。

認知症でない人は、物が見付からない状態になると「どこに置いたっけ?」と考えますが、認知症高齢者の場合は、自分が物を無くしてしまった可能性について考えることができません。

なので、「物が見当たらない=盗まれた!」と発想してしまうのです。

キレる高齢者への対応は?

物盗られ妄想が酷い利用者への対応策は?

soppo盗難被害の対象にされてしまった介護職員は、この問題を軽視するのではなく、適切な対応策を練る必要があります。

対応策を考える上で、最もやってはいけない対応は、「認知症高齢者を厳しく注意したり、叱責したりすること」です。

そもそも認知症高齢者は注意や叱責の意味を理解できません。

なので、お年寄りの言動を修正すること自体が無意味ですし、注意や叱責によって認知症高齢者の悪感情は更に膨らみ、妄想被害はより強まってしまうので、認知症高齢者への注意や叱責は、「百害あって一利なし」と覚えておきましょう。

高齢者からの対象になってしまった介護職は、自分で解決しようとはせずに、すぐに上司や管理職や施設長に報告してください。

その際、感情的にならず、

①いつ
②どこで
③介護職が何をしていた時に
④認知症高齢者がどのような発言をしたのか

――※この4点を説明できるようにしてください。

また、管理職や施設長など責任ある立場の人は、被害妄想が激しい症状が出ている高齢者が、まだ認知症と診断されていない場合は、家族に報告すると同時に、すぐに精神科を受診させてください。

家族に伝える際は「物を盗ったと妄想被害を訴えられている」と決め付けてはいけません。

このようなケースで家族に伝える際は「私たちは被害妄想が激しくなっているのだと思うのですが、もしかしたら○○さんの物が見当たらないのは、当方の事故かもしれないので内部調査を行います。しかし認知症を発症していたら適切な対応策を考えないとならないので、精神科に受診させてください」と伝えると良いでしょう。

冷静に「病気がそうさせている」と考えよう

物を盗られたという認知症高齢者の妄想では、誰かが犯人に仕立てられることになるので、傷つく人が出てきます。

しかし、認知症高齢者の立場に立って考えてみれば、「お金を盗られた」「誰も信じてくれない」と苦しんでいるわけなので、犯人扱いされた介護職も、認知症高齢者を恨んだり憎んだりすることなく、まずは冷静に対処してほしいのです。

それには、認知症やアルツハイマー病や物盗られ妄想について、正しい知識を身に付けておく必要があります。

「病気がそうさせているだけで、この人も被害者なんだ」と心に余裕を持ち、思いやりを持って対応できる介護職員を目指しましょう。

スポンサーリンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ページ上部へ戻る