介護職の海外研修で学んだ日本とヨーロッパの福祉レベルの違い

「ヨーロッパの福祉」と聞くと何を思い浮かべますか?

 

「税金が高いから老後が安心」

「福祉が発展している」

 

これらはニュースなどでも良く聞く話です。

今の日本で、ヨーロッパのように「老後が安心」と聞いたことはきっとないと思います。

どうしてヨーロッパは老後でも安心で、日本は安心と言われていないのでしょうか?

それには、ハッキリとした理由がありました。

この記事では、海外研修で実際にスウェーデンとドイツを訪れ、ヨーロッパの福祉について学んできた現役介護福祉士が、福祉の差とそのレベルの違いについて解説します。

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介護職の海外研修で見た高齢者への対応の違い

スウェーデンを訪れたわずか5分後に「さすがヨーロッパは高福祉国!」と思った出来事がありました。

ヨーロッパに設置されている信号は「青信号」の時間がとにかく短いです。

日本の信号は90秒程度「青信号」の時間があります。

ですが、スウェーデンの信号は20秒程度ですぐに赤信号に変わってしまいます。

現地の横断歩道を初めて渡った時、車いすの人や高齢者に優しくない信号の作りだと思いました。

青信号の時間が短すぎて健康な人でも渡り切れないほどです。

車いすの人、歩行器の人、ゆっくり歩く老夫婦が、青信号のうちに横断歩道を渡り切れないのは当然で、赤信号になってもなお横断歩道を渡り続けていました。

当然、車は青信号になっても発車できません。

ですが、車の運転手は誰一人としてクラクションを鳴らすことなく、イライラしたそぶりも見せないのです。

日本の道路では、横断歩道を青信号のうちに渡り切れなかった高齢者にクラクションを鳴らしたり、ギリギリの距離まで車を発車させている光景を目にすることがあります。

ヨーロッパと日本は福祉の面で大きな違いがありますが、それだけではなく高齢者への対応が全く違うものでした。

スウェーデンとドイツに介護研修で行った時に感じたことを国別で分けてお伝えさせていただきます。

認知症介護の最先端|スウェーデンに訪れたときに感じたこと

①   税金が高くても国民の不満が少ない理由

スウェーデンは「所得税50%・消費税25%」と、税金がかなり高いです。

日本では消費税率が5%から8%に上がったとき、多くの国民が不満を訴えました。

消費税率8%の日本から見たスウェーデンの消費税率「25%」という数字はとても驚きです。

ですが、高税率であっても国民の不満の声というのはあまり聞かれません。

 

この違いは「税金の使い道が目に見えるか、見えないか」というところにあります。

スウェーデンでは、支払った税金が「どこで」「何に」「何のために」使われているのかが目に見えて分かります。

 

スウェーデンの税金の使い道は「医療・福祉・教育」がメインです。

日本では考えられませんが、幼稚園から大学までの費用はすべて無料なのです。ご存知でしたか?

福祉においても、日本の場合は、貧困層は老後もお金に苦しみ希望する介護サービスにも手が出ないことがあります。

国に支払った税金が「何に」使われているのか?

私たちの目にはハッキリ映っていないですし、国家予算を横領していたという報道も耳にします。

そのような状況で増税になっても、不信感しか生まないのは仕方のないことです。

 

ですが、スウェーデンの場合は貧困層・富裕層関係なく、全ての国民に平等な介護サービスが提供されます。

「貧困層だから最低限の介護サービスしか受けられない」

「富裕層だから質の高い介護サービスをたくさん受けられる」

といったことがありません。

 

全ての国民に平等な介護サービスを利用してもらうために税金が使われていることを国民はよく知っているので、将来のためだと消費税率が高くても不満を訴えないのです。

②   スウェーデンの考え方は「医療<福祉」

スウェーデンは他の国より早い1972年に高齢社会を迎えたこともあり、『福祉』に関する関心度がずば抜けて高いです。

1980年代に世界で初めてグループホームをオープンしたなど、福祉について試行錯誤を重ねてきました。

福祉に力を入れてきた結果として、現在のスウェーデンは寝たきりの高齢者が少なく、認知症者も少ないです。

仮に認知症になったとしても、重症化することはほとんどなく、認知症患者の半数は自宅で独居生活を送れているほどです。

国が、医療福祉にかける予算は「医療5%・福祉85%」

圧倒的に福祉への財源の方が大きいことが分かります。

福祉を徹底しているからこそ、医療にあまりお金をかけなくても成り立つことができているのです。

③   日本とスウェーデンの「介護観」の違い

日本では「高齢者福祉=介護」ですが、スウェーデンでは「高齢者福祉=サポート」となります。

スウェーデンはとにかく自立を求めます。

高齢者に「~してあげる」という考え方はあまりしていません。

 

「自分でできることは自分でする」

「自分で出来なくても、自分で出来るようにするにはどうすればいいのか?」

 

というのが、スウェーデンの考え方です。

今でこそ、そのような高齢者福祉の考え方にはなっていますが、スウェーデンも高齢社会となった当時は、間違えた「介護」をしていました。

日本と同じくスウェーデンも介護職が不足しています。

現在の日本と同じで、当時のスウェーデンも介護現場は時間に追われ、少しでも介護にかかる時間を短縮すべく高齢者へのケアは全介助でした。

ですが、その「介護」自体が間違えていることに気付きます。

確かに自分で自分のことをしてもらうと、ペースがゆっくりで失敗も多いので、全介助の3倍くらい時間がかかります。

ところが、介護職がすべてを介助してしまうと、高齢者の身体の機能はますます低下し、自分では何も出来なくなってしまうのです。

自分で何も出来なくなってしまった高齢者が増えれば増えるほど、介護士が必要となってしまうので、介護士が少ないならば、高齢者の自立度を上げて少ない介護職員でも対応できるようにしなければならない、スウェーデンの介護職はそう考えました。

スタッフの教育を強化し、できるだけ自分で生活ができるように「生活環境づくり」に力を入れた結果が今の「寝たきりの高齢者・認知症患者が少ない国」に繋がっていったのです。

高福祉国家|ドイツに訪れたときに感じたこと

①   世界最大規模の福祉機器展「REHACARE」

ドイツのデュッセルドルフで、毎年「REHACARE(リハケア)」という福祉機器展が開催されます。

世界最大規模の展示会で、約40か国の国から900~1,000社が福祉機器を出展しています。

ヨーロッパ諸国の福祉は「高齢者の自立」がテーマなので、移動手段などの自立支援の福祉機器がメインとなっていました。

 

その中で印象に残ったことがあります。

 

例えば、日本では車いすを使用している人は階段を利用することができません。

エレベーターを使用し、エレベーターのない建物での階の移動はあきらめてしまいます。

ですが、ヨーロッパでは車いすの人でも階段を上り下りします。

なぜなら、階段の上り下りができる車いすが開発されているからです。

車いすの人が階段を上り下りするなんて聞いたことがあるでしょうか?

ヨーロッパの福祉は比べ物にならないほど発展しています。

仮に、親や配偶者が車いす生活となった時、移動ツールとして車も必要ですよね。

「車いすを乗せられる車を買わなければならない」

これが日本の考え方です。

ところがヨーロッパでは

「今の車に車いすを乗せられるようにカスタムしよう」となるのです。

どのような状況にも、どのような物にも対応できる福祉機器がヨーロッパではすでに流通しているのです。

②   要介護者の違い|日本とドイツの差

ドイツ有料老人ホームに視察に行ったとき、老人ホーム内は「自立者のフロア」「要介護者のフロア」に分かれていました。

ですが、ドイツでの「要介護者」は、日本での「ほぼ自立状態」

ドイツでの「要介護者」と日本の「要介護者」はレベルが全く違います。

その理由は、ドイツはスウェーデンと同じく福祉体制が整っているため、認知症が重症化することが少なく「自立支援」を促しているので、日本のような寝たきりの高齢者の割合が大幅に違うといったところにあります。

少ない寝たきり高齢者の中での「要介護度認定」を要することになるので、日本の場合「ほぼ自立」に見えても、ドイツでは結構重症に思われてしまうのです。

要介護者と言っても、あくまでもドイツが推しているのは自立支援なので、本当に手を貸す程度のサポートしかしていませんでした。

③   最期は自宅で迎えることが一般的

最近日本では「高齢者になってもできるだけ在宅で生活を送り、最期は自宅で…」という考えがうまれてきています。

ですが、ヨーロッパでは随分昔から「自宅で最期を迎える」ということが一般的になっていました。

どうしても自宅では介護できない場合もありますが、その場合でも老人ホームの居室をできるだけ自宅の雰囲気に近づけたりするなど生活環境に配慮しています。

誰でも、最期はゆっくりと穏やかに人生を締めくくりたいと考えるものです。

自宅で最期を迎えることによって得るメリットは、高齢者だけにあるのではなく看取った人にもあります。

自宅で看取るということは容易なことではありません。

どうすれば穏やかな最期を迎えてもらうことができるのか、看取る家族は目で見て、考え、学びます。

そしてその経験を次世代へと繋げていくのです。

そのような「自宅で看取ることが当たり前」と考える風潮が福祉への関心度を高め、高福祉国家と呼ばれるまでになったのでしょう。

ヨーロッパが福祉大国になった理由

ヨーロッパの高齢者は本当に元気です。

気力だけではなく身体も丈夫で、足腰の強さが日本とは違います。

ヨーロッパの地面は石畳の場所が多いので、自然と足腰が鍛えられるのです。

そのような身体の強さと気力の強さが合わさり「自分で出来ることは自分で」という自立心強の強さに繋がったのでしょう。

自分のことを自分でするためには、それなりに福祉が発展していないと限界がうまれてしまいます。

私たちの住む日本では太刀打ちできないほどヨーロッパの福祉が発展していることは事実です。

この差の根本にある問題とは、『国民の自立心の強さ』だと感じました。

日本での老後の心配は国だけのせいにするのではなく、ヨーロッパのようにまずは国民の自立心を今よりもっと養わなければなりません。

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