消費税率が10%に上がることに伴い、2019年10月より介護福祉士の賃金が見直されることになりました。
政府が、勤続10年以上の介護福祉士を対象に、月額の平均で8万円相当の賃上げに踏み切ると、更なる処遇改善に踏み切ると発表したことが話題になっています。
しかし、介護現場からの意見は賛否両論となっています。
賃金が増えるのにどうして賛否両論となっているのか?介護福祉士は介護現場に何を求めているのでしょうか?
介護福祉士の賃金8万円アップの政府による処遇改善について、介護現場の介護福祉士の「本音」を聞いてください。
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賃金8万円アップの条件は「勤続10年以上の介護福祉士」
平成29年12月5日の「自民党政調全体会議」において、『消費税10%への増税に伴い2019年10月から、勤続10年を超える介護福祉士に月8万円相当の賃上げを行う』との提案が出ました。
参考URL「勤続10年以上の介護福祉士、月8万円の賃上げへ 処遇改善の政府原案」
参考URL「介福士の8万円賃上げ、消費増税に伴う報酬改定で対応 公費1000億円投入 政府方針」
この「勤続10年以上の介護福祉士8万円の賃上げ提案」について、SNSなどでは
「10年働いたタイミングで介護福祉士の資格を取得していればいいの?」
など、現役介護福祉士からは「10年以上」ということについて疑問の声が多く上がっています。
賃上げの意図はこうです。
現場を長く支えている専門性の高い人を優遇することで、介護の仕事を続けていく場合の将来の生活をうまくイメージできるようにし、業界に入ってくる人の増加や離職の防止につなげていく狙いがある。
確かにそうですね。
介護士というのは、元々低賃金であることに加えてなかなか給料が上がらないというジレンマを抱えています。
それに、多少給料が上がったとしても、それに比例して税金関係の支払いが増えてしまい、結局収入はずっと変わらない、といった無限のループに悩まされています。
それが突然、10年以上勤続している介護福祉士の給料が8万円もアップするとなるとどうでしょうか?
世間的には「10年で8万も賃金が上がるなんて高優遇!」と思うでしょう。
ですが、先ほども言ったように世間の介護士は「10年以上」というワードに疑問を抱いているのです。
介護現場全体の平均勤続年数は約5年
私は特別養護老人ホームで副主任として勤務していますが、キャリアで言うと今で8年目といったところです。
先輩職員は少なく、5年目で既に副主任となりました。
介護の現場というのは、職員の定着率が非常に悪く、パートやアルバイト、派遣社員に頼っている状態なので、勤続5年であっても管理職になってしまうような介護現場です。
キャリア5年というと一般企業では「中堅職」といったところではないでしょうか。
5年で管理職になるようなことって、一般のまともな企業では普通はないです。
つまり、そのような退職者が多数いる中での「介護施設で10年働く」というのは、そう簡単なことではないのです。
平成25年度介護労働者実態調査の結果から、職員の勤続年数を見てみると平均勤続年数が5年であることが分かっています。
3年未満で退職する者が多く、10年まで勤続出来る人なんて本当に少ないのです。
介護福祉士国家資格の受験者数が減少している
現在は、介護現場で働く職員に月で最大『3万7000円』の処遇改善手当てが国から支給されています。
そして、さらに+8万円の賃上げともなると、かなりの収入アップが期待できます。
ですが、私個人の意見としては「せめて5年以上の介護福祉士にしようよ…」と思うわけです。
2015年に介護福祉士国家資格の受験資格が見直され、最大450時間の実務者研修を受講しなくてはならないことになりました。
政府が「介護はプロフェッショナルの仕事」と位置付け、介護福祉士国家資格の受験要件を厳しくした、ということは分かります。
しかしその結果、介護福祉士国家資格の受験数そのものが減少し、2015年度の受験者数16万919人だったところが、2016年度は7万9113人と半減以下になってしまいました。
といことは、介護福祉士の定着云々の話よりも、介護福祉士が不足するといった事態に今後は陥ってくる可能性が非常に高いと言えます。
そもそも実務者研修には10万円前後の費用がかかります。
市町村や施設が費用を負担してくれるケースもありますが、実費で支払わなければならない場合も多くあります。
ただでさえ減少している介護福祉士に「今、介護福祉士の資格をとったら、10年後8万円の収入アップがありますよ」といったところで受験者数が増えるとは到底思えないのです。
介護現場で必要なのは「賃金」ではなく『人員』
もちろん賃金の上昇も必要ですが、現場で働く現役の介護福祉士が賃金と同等以上に求めているのは「人員」です。
介護の現場が求めているのは、必ずしも「賃金」とは限らないのです。
世間では介護士は低賃金であると散々言われているので、皆それを分かって就職しているはず。
それでも離職率が高いというのは、やはり仕事の多忙さに一因があると考えざるを得ないのです。
介護の仕事に対して、正直イライラすることも時にはあるでしょう。
イライラやストレスに耐えるには、介護現場が人員を確保することによって、ひとりひとりの仕事の負担を減らすこと。
そして、心に余裕を持つことこそが、介護にやりがいを持ち、楽しく仕事することができる唯一の方法だと私は思っています。
だからこそ、「10年以上」という縛りにするのではなく、せめて「5年以上」にして、少しでも介護福祉士の受験者数が増えるようにしてほしい。というのが現場の願いです。
10年というのはとてつもなく長い期間に感じますが、それが5年になる、と何となく短い期間に思えて、頑張れる気持ちになれるんじゃないでしょうか?
介護現場の「勤続5年」は現場を支える責任のある立場
そして、なぜここまで私が「5年以上」にこだわるのか?それは、介護現場を支えている人材は「キャリア5年前後の中堅職」だからです。
キャリア5年ともなると、新人職員に対しての指導も行っていくので現場を支えているのは中堅職ということになります。
慣れない指導を一生懸命にする中堅職にも、それなりの手当金を支給しなければ、どうしても「不公平だなー」と思ってしまうのです。
仮に、介護福祉士有資格者で5年以上の勤務実績がある職員に賃上げをするとなると、現在提案されている「8万円」からは減額されると思いますが、それでも私は「5年以上」からの賃上げを強く希望したい。
そうしなければ正直介護福祉士は増えないと思います。
本来介護の現場で職員が定着するために、人員を増やすためにしなければならないのは、賃金を増やすことではなく
「10年以上勤続して働ける環境を整えていくこと」
これが本来なければならなかった介護現場の現状改善のための一手だったのではないでしょうか。
しかし、それが出来なかったために、今回の「賃上げ」に繋がったのだと思いますが、10年以上働いている人が介護現場を支えているわけではない。
10年以上のキャリアがある人は、管理職に就いていることが多いので現場にはほとんど現れないことがあります。
実際、現場で働き、現場を支え、現場を思っているのは5年前後の中堅職であることを政府に分かってもらいたいです。
「勤続10年」で日本の介護の質は落ちることになる
そして、政府案で気になるところが、「勤続10年以上」というのは、「同じ施設で10年?」それとも「介護福祉士のキャリアとして合計10年?」ということです。
例えば、同じ施設で10年ということであれば、これまた日本の介護業界はマイナスイメージとなっていくと思います。
「同じ施設で10年働かなければならない」となると、当然退職者は減り同じ施設で働き続けることになりますよね。
職員の定着率がアップする、といった面では良いことだと思います。
しかし近年、介護施設というのはどんどん増え続けています。
ということは、「新しく設立した介護施設の介護福祉士をどこから引っ張ってくるのか?」と疑問に思います。
それこそ、新しい施設には
「介護福祉士を所有しているが介護現場は未経験」
「無資格未経験者」
などの人材しか集まらず、介護の質が非常に低い施設ばかりになってしまいます。
一方では、勤続年数が長い職員が多い施設もある。
施設によっての格差が激しくなるのでは?と思ってしまいます。
介護の現場を支えているのは介護福祉士だけではない
そしてもう一点気になるところが「介護福祉士」というしばりです。
介護福祉士と利用者の中立的立場であり、密に連携をとっている「介護支援専門員(ケアマネージャー)」はどうでしょうか?
「生活支援専門員」の場合は、勤務表上の職種が「介護支援専門員」となっていれば賃上げの対象外となり、「介護支援専門員兼介護職員」または「介護職員」となっていれば賃上げの対象となるようです。
勤務表上どの職種になっているかがポイントになります。
人員体制が整っていない施設では、生活支援専門員も介護現場に入り、現場の仕事を手伝いつつ生活支援専門員としての仕事もこなすといったことがザラにあります。
しかし、それでも勤務表上での職種が「介護支援専門員」となっていれば、賃上げは見込めないということです。
これまた「不公平だなー」と感じてしまう要素です。
「政府は介護現場の現状を本当に分かっているのだろうか?」
そう介護現場から声が上がっても仕方がないですよねこれじゃあ。
確かに「8万円の賃金アップ」というのは魅力的です。
限られた予算から、介護現場にお金を回さなければならないことがどれほど大変なことかも分かっています。
ですが、介護に携わる者の人員は介護福祉士だけが不足しているわけではなく、介護福祉士だけが大変なわけでもない。
介護福祉士の周りにもお年寄りを支える役割を果たしている職種の人はたくさんいるのです。
介護現場の現状を変えるのは今のままでは困難
介護に携わる者が、皆平等な待遇をうけることができる日はやってくるのでしょうか。
介護現場の外側だけではなく、世間にはもっとしっかりとした介護現場の中身を知ってほしい。
介護現場の処遇の改善をするのは、介護現場を知らない人ではなく介護現場を知っている人がするべきではないかと思います。
介護現場の現状を変えるのは、長い道のりになりそうです。
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