介護職の離職率の高さが問題視されています。
その一因として『仕事の大変さ』が挙げられていますが、介護現場の大変とはどういった大変さなのでしょうか。
実際に介護現場であった『大変だった場面』と共に、それでも私が介護士を続けることができる理由を、介護士歴9年の現役介護福祉士が解説します。
① 介護現場は常に認知症高齢者を見なければならない
一般的に、介護という言葉からイメージするのは、『優しい介護士がおじいちゃんおばあちゃんの世話をする』ということではないでしょうか。
介護にまつわる雑誌やチラシ、ホームページを見ていると必ずと言ってもいいほど登場するのが『介護士とお年寄りが微笑みあっている写真』です。
私も介護士になる前は、お年寄りのお手伝いをし、「ありがとう」と言ってもらえ、やりがいのある仕事のイメージが強かったです。
しかし、実際に介護現場で働いてみるとイメージとは全く違うものでした。
介護現場では『認知症高齢者』が生活しています。
- 「何もしていないのに突然お年寄りに怒鳴られる」
- 「ツエで殴られる」
- 「介助中に手や足が飛んでくる」
なんてことは日常茶飯事で、私の同期は介護系の専門学校を出たにも関わらず実際に重度な認知症高齢者を目の当たりにすると受け入れることができずに退職してしまいました。
ただただ介護するだけなら身体的負担のみで頑張れるかもしれませんが、それに暴力行為までプラスされるとただならぬストレスをどうしても感じてしまうのです。
しかし、相手は認知症高齢者。
認知症だから仕方がないと割り切ってただ我慢するしかない介護士の立場は辛く、ストレスがたまる一方なのです。
② 不規則な勤務で働く介護士
介護士のシフトは『日勤・早出・遅出・夜勤』などがあります。
夜勤があることにより、生活リズムがさらにバラバラになってしまいます。
生活リズムがバラバラになるとホルモンバランスが崩れ、体調不良に陥りやすく、質の良い睡眠もとれなくなってしまいます。
さらに、不規則勤務というのは家庭のある人にはとてもきついです。
私は結婚していて家庭のこともしなければならなかったため、夜勤の日でも朝の5時半に起きて主人の朝食準備を済ませてから、掃除・洗濯・夕食準備・翌日のお弁当作りをして少し仮眠をとってから夜勤に向かっていました。
当然夜勤はしんどかったですし、早出も4時代に起きなければ間に合いません。
いい意味で家事を妥協すればよかったのかもしれませんが、それができない性格だったので、結果的に自分で自分の首を絞めることになってしまいました。
不規則勤務を経験した私がただひとつ言えるのは、『規則正しい生活を送ることができないということは、家庭の有無に関わらず健康な生活を送ることができなくなってしまう』ということです。
そして、家庭のある人にはさらに厳しい現実があるということです。
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③ 介護現場では『少しのミス』が命を奪うことになる
私が新人だったころのある日、このようなことがありました。
導尿している利用者を車椅子からベッドに移乗し、臥床介助をした後、『バルーンチューブが少し折れ曲がっていたから今度から注意して!チューブが折れ曲がったら後から熱が出てくるかもしれないから!』と先輩から言われました。
正直、ことの重大さが分かっていなかった私は『はい』といったものの、内心『大げさじゃない?』と思いました。しかし、その日の夕方そのお年寄りは『39.2℃』の高熱が出たのです。ドクターによる診察結果は『尿路感染』。明らかに私のミスが引き起こした熱発でした。
チューブの一部が折れ曲がっていたことは、傍から見れば小さなミスかもしれません。
ですが、高齢者介護をする上で、導尿のチューブをほんの一部でも折り曲げてしまうということは、小さなミスでは許されないのです。
「まさか?」と思うことでも、結果的にはお年寄りの命に関わることになってしまうので、常に細心の注意を払い、神経を張り巡らせ介助しなければなりません。
すべての行為がお年寄りの命に関わってしまうことになるという責任感と緊張感はただならぬものではありません。
ミスがミスを生む無限のループに陥りやすい
介護の仕事をしていると、真面目に何年やっていても、ミスをしてしまうことがあります。
ミスをすると当然同僚や上司に注意されますが、失敗したことで動揺してしまい、さらにミスを重ねてしまうケースが多くあります。
私の3年下の後輩は、物事の吸収が早く新人の時から『よくできる子』と言われていました。
しかし、ある日の朝、服薬介助をしている最中に、誤って薬を本来服用してもらわないといけない利用者ではない、別の方に服用させてしまいました。
いわゆる『誤薬』です。
本人に決して悪気があったわけではありません。
ですが、誤薬は命に関わることになるので、「どうして誤薬をしてしまったのか?」しっかり後輩の意見を聞いたうえで二度とないように伝えました。
やんわりと注意しましたが、自分のしてしまったミスがよほどショックだったのでしょう。
それからの後輩は、切羽詰まったような表情で仕事をし、どこか上の空で
- 『ベッド柵の付け忘れ』
- 『布団のかけ忘れ』
- 『胃ろう者の注入忘れ』
など、普段では絶対にあり得ないミスを頻回に起こすようになりました。
『失敗してはいけない』
そう思えば思うほど、注意散漫となってしまい自分で自分をコントロールすることすらできなくなり、ついには無断欠勤し、その後も出勤することはなく退職に至りました。
いくら優秀だと言われている人でも、一つのミスがただのミスでは許されないのが介護現場です。
それに耐えきれずミスを重ねてしまったり、精神的に追い込まれてしまうのも介護現場では珍しいことではありません。
④ 命と向き合うことは想像以上に難しく、どんなに注意していても起こってしまう事故がある
6年前、ある利用者に朝食介助をしていた時です。非常に飲み込みの悪い利用者だったため、食事はすべてミキサー食で対応していました。しっかりと起きていることを確認し、食事のミキサーのかかり具合や固さを十分に確認して食事介助をしましたが、食事開始から10分後、突然目を見開く利用者にすぐさま『誤嚥した』と気付きました。
急いで吸引を行い呼吸状態は戻りましたが、ドクターに往診してもらい状態を見てもらうと『肺がほとんど機能していない』との診断があり、それからわずか1時間後に息を引き取りました。
飲み込みの悪い方に食事介助をするときは細心の注意を払いますが、それでも起こってしまう誤嚥事故は実際あります。
それを全て防ごうとするならば、飲み込みの悪い人は経管栄養にしてしまわないといけなくなります。
ですが、そのようなことは出来ないので、細心の注意を払いながら状態を見て介助しなければなりません。
誤嚥事故が起きてから6年もの月日が経ちますが、いまだに食事介助をしているとその日のことを思い出します。
どんなに周りにフォローされても、自分の介助により亡くなってしまったという事実に変わりはなく、これから先もその時の思いが一生付きまとってくることになるのです。
利用者からのマイナス発言にどう対応していけばいいのか
介護現場で辛いのは利用者からのマイナス発言を聞くことです。
介助の最中
- 『もう死にたい』
- 『生きても迷惑かけるだけ』
- 『迷惑かけてまで生きたくない』
このようなマイナス発言を幾度となく耳にしてきました。
そのような発言をされたときはどのように答えればいいのか本当に悩みます。
マイナス発言を聞くのが嫌で、仕事に行きたくないとすら思ったこともありました。
- 『気の利いたことが言えない自分』
- 『利用者の気持ちを楽にする一言を言えない自分』
- 『利用者にそのような思いをさせてしまっているケアの方法』
すべてに申し訳なさとモヤモヤが積み重なっていきます。
返答に答えがないということが、マイナス発言に対して言えることで、そのたびに自分の不甲斐なさを感じてしまうことになるのです。
⑤ 介護士より看護師の方が立場が上で、人間関係に溝がある
介護現場では、いくら介護の現場とは言っても看護師の立場が上です。
そして、介護士と看護師の介護に対する視点や考え方が異なることが多いので、介護に対する方向性の違いが生まれ、介護士と看護師の中で溝ができてしまうのです。
そのような場合は、やはり看護師の立場が上なので、看護師の意見が通ることが多く、物事の判断は看護師が決定すると言っても過言ではありません。
利用者からこうしてほしいと頼まれたとしても、看護師が「ノー」と言えばできないので、利用者と看護師の板挟みになることがしばしばあります。
利用者にできる限りのことをしたいと考える介護士と、医療的な視点で判断する看護士の方向性の違いで、悩むことも少なくはありません。
ピリピリしている介護士同士の人間関係
介護現場は常にピリピリしています。
- 『業務を時間内に終わらせないといけない』
- 『ミスしてはいけない』
- 『先輩の足を引っ張ってはいけない』
など、様々なことが原因となり常に神経を張っている介護士は心にゆとりがなくなっている状態です。
そのような中で、職員同士の相性が露骨に出てしまうようになります。
- 『〇〇さんは仕事が遅い』
- 『○○さんとは仕事のペースが合わない』
- 『〇〇さんとは相性が悪いから一緒に仕事したくない』
などは、介護現場ではよく聞く話でした。
また、イライラが募り介護職員同士でも口調がきつくなってしまったり実際に言い合いになりトラブルになることもあります。
そのため介護職の人間関係には派閥が生まれやすく、常にピリピリしていることが多いのです。
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利用者家族との人間関係には溝がある
利用者家族は『施設に入所すること=安全』だと思っていることがほとんどです。
- 『家ではよく転倒して病院へ行っていた』
- 『家から出て行って警察に保護されていた』
- 『でも、施設に入れば安心。』
利用者家族はこう思っています。
ですが、施設に入っているからと言って100%安全ではありません。
利用者が自分のペースで生きている以上転倒もしますし、施設外に出て行ってしまうこともあります。
家族の意識の違いと、実際に施設内で起こることの違いによって、職員と利用者家族の間にも溝が生まれてくるのです。
例えばこんなことがありました。
『自分でトイレに行きたい』という思いがあるおじいちゃん。職員に手伝われることは大嫌いな方だったので過度な見守りをしすぎると立腹していました。私たちは四六時中とは言えなくてもできる限りおじいちゃんがトイレに行っているのを見かけたときは見守りをしていました。
ですが、過度な見守りをすると立腹するおじいちゃんの見守り毎回毎回することは困難です。半身まひのある方だったので歩行は不安定でトイレに行くときに転倒するリスクが高く、ご家族にはトイレ時の転倒のリスクについては説明してきました。
しかし、ご家族から返ってきた言葉は『こけたら困るのでどうにかしてください!!』でした。
これには正直、耳を疑いました。
転倒すれば大変なことくらい分かっています。
ですが、「転倒しないために、ずっとおじいちゃんがトイレに行くタイミングを、まるで監視するかのように見なければならないのか?」とどうしても思ってしまうのです。
時には無理難題を言ってくる困ったご家族もいますし、転倒してしまった時も施設がしっかりと見ていなかったから悪いと言われることも多いです。
そのようなことが積み重なり、利用者ではなく利用者家族とのかかわりの中でストレスが溜まることが多いのです。
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どうして私が介護士として働き続けることができているのか?
単刀直入に言うと、介護士は辛いし大変です。
介護士として働き、今年で9年目になりますが、大変ではないと感じたことは一度もありません。
では、『なぜ私がそれでもなお介護士を続けることができているのか?』というと、やりがいを感じているからです。
どんなに大変なご家族でも最後には『ありがとうございました』と言ってくれます。
どんなに厳しい先輩でも、良い対応ができた時は褒めてくれます。
そして、どんなに重度な認知症利用者でも、まるでこちらの思いが通じたかのようにニコっと笑いかけてくれることがあります。
私たち介護士は、人生の最後の場面でのケアを行っているので辛くて大変なのは当たり前のことです。
介護士の仕事は大変で辛い。
けれども、やりがいがあり楽しい。
これが、私が介護士として働き続けることができている理由です。
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